PCCJ2026 Rd8 / Rd9
鈴鹿サーキット「ホームストレート」。
ただの直線ではない。
そして、ここから1コーナーが始まる。
前回は、 「鈴鹿サーキットとは、どんなコースなのか」 というところから、鈴鹿というコースの全体像をご紹介しました。
今回からは、 いよいよ一つひとつのセクションに入っていきます。
第一回は、 ホームストレート。
鈴鹿サーキットのホームストレートは 約800m。 ただ長いだけの直線ではありません。
その先には、 鈴鹿を代表する 1コーナー、2コーナー が待っています。
つまりホームストレートは、 「一周の終わり」であると同時に、 「次の勝負が始まる場所」 でもあります。
ホームストレートは「休憩区間」ではない。
サーキットを知らない方からすると、 ストレートはコーナーに比べて ドライバーが楽をできる場所に見えるかもしれません。
ハンドルを大きく切る必要もない。 ブレーキも踏まない。 ただアクセルを踏んでいるだけ。
しかし、 レーシングドライバーにとっては 全く違います。
むしろ、 「次の1コーナーをどう攻略するか」 を考えながら走っているのが ホームストレートです。
どのラインを走るのか。 前のクルマとの距離はどれくらいなのか。 スリップストリームに入るのか。 仕掛けるのか。 それとも、あえて仕掛けずに 次の機会を狙うのか。
そして最後には、 1コーナーへ向けて 強烈なブレーキングを始めなければなりません。
重要なのは「最後」ではなく「最初」。
ホームストレートを速く走る。
そう聞くと、 ストレートに入った瞬間から アクセルを全開にすればいいと思うかもしれません。
もちろんアクセルは全開です。
しかし、 本当に重要なのは ホームストレートに入る直前。
つまり、 最終コーナーからの立ち上がり です。
最終コーナーを立ち上がった瞬間、 どれだけ良い姿勢でクルマを加速させられるか。
そこで数km/hの差が生まれる。
その差は、 ストレートを走っている間に 少しずつ大きくなっていきます。
そして約800m先の 1コーナーに到達する頃には、 明確な差になっている。
「ストレートに入るまでに速さを作っている」。
これがレーシングドライビングの 非常に重要な考え方です。
だからこそ、 ホームストレートだけを見ていても 本当の速さは分かりません。
その前のコーナーで どれだけきれいにクルマを立ち上げられたのか。
そこまで含めて、 一つのセクションなのです。
そして始まる「1コーナーへの攻防」。
ホームストレートを走り切った先にあるのが 1コーナーです。
ここが、 ホームストレートのもう一つの重要なポイント。
「ストレートは、次のコーナーのためにある」 と考えると分かりやすいでしょう。
例えばレース中、 前を走るクルマとの距離が少しずつ縮まっている。
そのとき、 ただ後ろについていくのか。
スリップストリームを使って 一気に距離を詰めるのか。
そして1コーナーで オーバーテイクを仕掛けるのか。
判断する時間は、 決して長くありません。
レースでは、 この判断一つで ポジションが入れ替わります。
どこで仕掛けるのか。
どこでブレーキを踏むのか。
どこまで前のクルマに近づくのか。
そして、 1コーナーでクルマをどう向けるのか。
高速で走りながら、 ドライバーはこれらを同時に判断しています。
PCCJでは、さらに面白い。
ここで、 Porsche Carrera Cup Japan だからこその面白さがあります。
PCCJは、 Porsche 911 GT3 Cup を使用するワンメイクレース。
基本的に同じ仕様のレーシングカーで ドライバー同士が戦います。
つまり、 「あのクルマはエンジンが速い」 「このクルマはストレートが速い」 という単純な話ではありません。
もちろんセットアップやコンディションなど レースを左右する要素はあります。
しかし、 イコールコンディションに近い環境だからこそ、 ドライバーがどこで差を作っているのか が非常に見えやすい。
ブレーキング。 ライン取り。 立ち上がり。 スリップストリーム。 そして判断。
ホームストレートは、 これらすべてが一つにつながる場所です。
「ブレーキを遅らせれば勝ち」ではない。
1コーナーで前のクルマを抜きたい。
そう思えば、 できるだけブレーキを遅らせたくなります。
しかし、 それが必ずしも速いとは限りません。
オーバースピードで1コーナーへ進入すれば、 クルマの向きを作ることが遅れる。
そして、 その先には2コーナーがあります。
つまり、 1コーナーだけを速く走ろうとして 無理をすると、 2コーナーまで含めた区間でタイムを失う 可能性があります。
ここが鈴鹿の難しいところ。
一つのコーナーだけではなく、 その先まで考えて クルマをコントロールする必要があります。
「どこで遅くするか」も知っている。
レースでは、 常に限界まで攻めればいいわけではありません。
ここは100%。 ここは98%。 ここはあえて少し残す。
そうやって一周全体を組み立てます。
ホームストレートから1コーナー、 そして2コーナーへ。
その先まで考えたうえで、 今どこまで攻めるべきなのかを判断する。
それが、 レーシングドライバーの「速さ」です。
スタートでは、最初の勝負がここから始まる。
レーススタート時のホームストレートは、 また違った緊張感があります。
グリッドに並んだ911 GT3 Cup。
エンジンが唸り、 シグナルが消える。
そこから一気に加速。
前後左右に ライバルがいる状態で 1コーナーへ向かいます。
ここでは、 予選順位だけでは決まらない レースの駆け引きが始まります。
1台でも前へ出る。
逆に、 無理をしてポジションを失わない。
タイヤを守る。
前車の動きを読む。
そのすべてを考えながら 1コーナーへ向かいます。
約800mの先に、鈴鹿の難しさが待っている。
ホームストレートは、 約800m。
その数字だけを見ると、 「長い直線」と思うかもしれません。
しかし、 ドライバーから見ると この約800mは非常に濃密な時間です。
アクセルを踏みながら、 前を見る。 ミラーを見る。 タイヤを感じる。 クルマの状態を確認する。 前車との距離を見る。
そして、 1コーナーの進入を考える。
最後には、 強烈なブレーキング。
「直線だから簡単」 ではありません。
むしろ、 次のセクションを速く走るために、 この直線をどう使うか。 そこが重要なのです。
「次の一手を決める場所」。
レースでは、 ただ速く走るだけでは勝てません。
いつ仕掛けるのか。 いつ我慢するのか。 どこでブレーキを踏むのか。
そして、 その判断を クルマが限界に近い速度で走っている最中に行う。
だからこそ、 ホームストレートには レースの面白さが凝縮されています。
そして、ここから「鈴鹿」が始まる。
ホームストレートを走り切る。
速度は高い。 しかし、 ドライバーの仕事は ここからさらに忙しくなります。
ブレーキング。
1コーナー。
そして2コーナー。
そこからS字へ。
鈴鹿の特徴である 「リズム」が始まります。
次回は、 その入口となる 1コーナー。
1コーナーは、 ホームストレートの終わり。
しかし同時に、 「鈴鹿を速く走るための最初の判断」 が求められる場所でもあります。
どこでブレーキを始めるのか。 どこまでブレーキを残すのか。 どのラインで進入するのか。 そして2コーナーへどうつなげるのか。
次回は、 そこをプロドライバー目線で さらに深く掘り下げます。